風邪について

■風邪という病気について
風邪の原因は?
 風邪ウイルスが原因です。一口に風邪ウイルスと言いましたが、実は200種類以上あって、それぞれで症状が異なります。高熱が1週間ほど続き/お腹の症状も伴う「アデノウイルス」、ひどい咳が出る「RSウイルス」、鼻水がひどい「ライノウイルス」などが代表的なものです。 

 
■薬について
風邪に抗生剤は効くのか?
 抗生剤とはそもそも「細菌」を殺すための薬です。だから風邪“ウイルス”には全く効きません。それどころか喉や腸にもとから住み付いている「良い菌」を殺してしまいます。そうするとそこに別の病原菌が定着しやすくなってしまいます。
 さらには繰り返し、あるいは長期間抗生剤を使っていると、抗生剤の効きにくい「耐性菌」が出てきます。しばしば耳にする「MRSA」も耐性菌の代表です。これらの耐性菌が暴れ出したら、抑える薬がなかなか無いので厄介なのです。『風邪には抗生剤を使わない』・・・これが基本原則です。
それでも抗生剤を処方されたけど・・・
 風邪が長引いてしまった時は、喉や気管支などがひどく荒れてしまっています。そこに二次的に細菌が付くことがあります。肺炎・副鼻腔炎・中耳炎などがその状態です。こういう場合には抗生剤を使わないといけません。この見極めが難しいので、症状の重さ・医師の経験などに基づいて抗生剤をお出ししています。
 また、風邪ウイルス症状と区別が付きにくい細菌に「マイコプラズマ」や「クラミジア」があります。若い人(65歳以下)で/乾いた咳が1週間以上続き/時に高熱が出て/家族の中にも同じように咳き込んでいる人がいる・・・というのが特徴です。検査では診断しにくい細菌ですので、症状の特徴を聞いて疑わしければ抗生剤をお出ししています。ちょっと特殊な菌ですので、「クラリスロマイシン」という少し特別な抗生剤を1~2週間使います。
では風邪薬って、一体何者?
風邪ウイルスを殺す薬は無いとご説明しました。ということは、風邪の治療というのは、ウイルスの勢いが自然と落ち着くのを待つだけということです。速やかに治まるかどうかは、あなたの体力(免疫力)次第です。しかしひどい咳・喉の痛み・高熱などをただ我慢しているのもつらいものです。
 だから風邪薬というのは、それらの症状を抑えて楽にしてあげるためにあるのです。市販の風邪薬は、全ての症状を満遍なく抑える「総合感冒薬」です。診療所では、患者様それぞれの症状にあわせて薬を組み合わせてお出ししています。例えば、くしゃみ鼻水止めなどの入った総合感冒薬『ピーエイやサラザック』・咳止めの『メジコン』・強力な咳止めの『濃厚ブロチンコデイン液』・痰を切れやすくする『シスダイン』・喉の腫れを引かせる『トラネキサム酸』・中程度の解熱鎮痛剤『ロキソプロフェン』・強めの解熱鎮痛剤『ジクロフェナク』などです。
 また、下痢の時は基本的には下痢止めは使いません。止めると病原菌もお腹に留まってしまうかららです。下痢は出るままにしておきます。ただしその分の水分は十分摂りましょう。市販の下痢止めのの中には腸粘膜への毒性が強いものもあるので、注意してお使い下さい。
 処方日数としては4~5日が一般的です。普通の風邪ならこれくらいでだいたい薬が不要な程度まで症状が治まるだろうと予測するからです。長引く場合は抗生剤が必要かどうかを考えなければなりません。
解熱鎮痛剤(げねつちんつうざい)は必要か?
 熱が出るということは、ウイルスを追い出そうとする「必要な反応」が起こっているということなのです。だから解熱剤で熱を下げてしまうと、ウイルスにとっては居心地のいい状態になってしまい、風邪の治りが遅くなってしまうかもしれません。(同じく、くしゃみ・鼻水は鼻からウイルスを追い出すため、そして咳・痰は気管から、下痢は腸からウイルスを追い出そうとする大事な防御反応なのです。)
  そうは言っても、熱があるとしんどいものです。だから、子供さんの場合は38.5度以上あれば使ってあげるほうが良いと思います。大人の場合は症状のしんどさ次第でよいと思います。ただ大人の場合、痛みに対して鎮痛の目的で解熱鎮痛剤がすでに処方されていることが多いです。
うがい薬の効果は?
 体の中に入り込んでしまったウイルスはもう、うがい薬程度では追い出すことはできません。喉の痛みをイソジン(=ヨード)のうがい薬が一時的に少し楽にしてくれる程度です。ただし、後で述べるように、風邪“予防”にはうがいはとても大切です。
■予防について
感染予防は?
 風邪ウイルスの感染経路は多くが「接触感染」です。つまりウイルスの付いたドアノブを手で触った後で、その手で自分の鼻を触って、吸い込んで感染する・・・ということです。そうしますと、予防にはうがいと手洗いが最も大切ということです。(うがいは普通の水道水で十分です。)
 予防的なマスクも大切です。冬場の冷たい空気や、暖房で乾いた空気は喉の粘膜の働きを低下させます。そうすると簡単にウイルスが付いてしまいます。暖房するときは加湿器をつけたり、濡れタオルや洗濯物を干すなどして、空気を乾燥させ過ぎないことにも注意しましょう。
 また、もう風邪を引いてしまった時のマスクの意味というのは、くしゃみ・咳でウイルスを遠くに飛ばさないという周りの人への“マナー”ということです。
予防のための食事は?
 栄養状態が良いと、免疫力(抵抗力)も強くなります。その結果、風邪を引きにくく、こじらせにくいというのはあるでしょう。ビタミンCが良いといわれますが、はっきりしたことは分かりません。
 食欲が無くても水分はしっかり摂りましょう。脱水になりやすい子供さんと高齢の方は特に。熱による発汗もある時はなおのことです。吸収が速やかなのは、糖分とナトリウムが入ったスポーツドリンクです。
お風呂は入ってよいか?
 特にどちらでも良いですが、注意点だけ挙げます。風邪の引き始めはひどく寒気がします。これは、ウイルスと戦うために体温を上げようと準備している状態です。このときは熱いお風呂で体温を上げる手助けをして上げた方が、体にとって良いでしょうし、寒気も和らぐでしょう。
 熱が上がりきってぐったりしている時は、お風呂は止めておいたほうが良いかもしれません。なぜなら熱いお風呂に入ると、体力を結構消耗するからです。
 またお風呂の後に湯冷めはしないように注意を。
■インフルエンザについて
インフルエンザについて
 インフルエンザとは、風邪の強力なものと考えていただくとよいです。
 異なる点は、予防のためのワクチンが存在することです。ワクチンは打ってから2週間で効き始め、効果は5ヶ月持続します。一番良い接種時期は「11月初旬から12月半ば」ということになります。5歳以下の小児は1回の接種では効果が出にくいので、2回接種をお勧めしています。ということは、2回目を12月半ばに済ますには、1回目は11月半ばまでには打っておくことがポイントということです。
 高齢者・小児では感染予防効果は少し落ちますが、重症化を防ぐ効果はしっかりありますので、「自分は大丈夫」あるいは「去年は打ってたのにかかった」と言わずに、出来れば接種しましょう。何しろインフルエンザウイルスの感染力は、風邪ウイルスよりもかなり強力です。(インフルエンザは別名『流行性感冒』といいます)
 インフルエンザワクチンは“その年に流行が予測される型に対して作られる”ので、(効果が5ヶ月であることも合わせて考えると)毎年毎年きちんと接種することが大切ということです。
インフルエンザウイルスには治療薬(抗ウイルス薬)があります。ただし効果としては“熱が下がるのが1日短くなる程度”ですので、薬の副作用(=特に小児では「異常行動」が出ることある)も考えると使わなくてもよい薬です。
 つまりはワクチンをしっかり接種しておけば、あとの注意点は風邪と同じということです。
 ※他に不明な点がございましたら、遠慮なさらずにお尋ねください。